海運のナレッジ

実は社員も初めて?!船の見学に行ってみた!

当社がセールス&リースバック(SLB、詳細は後日、別の記事にて)を実行した多目的船が日本国内の某工場に入港するという情報を聞きつけ、訪船して参りました。

今回訪船した船舶は、「多目的船」といわれる船型で、その名の通り様々な貨物を運びます。本船は装備された2基のクレーンもしくは陸上のガントリークレーンを利用して船内に貨物を積載し、鋼鉄製のハッチカバーを被せて風雨や波浪から貨物を守ります。本船は外航貨物船としては比較的小型な船型で、港湾の整備が遅れている東南アジア圏にて根強い需要があります。本航海では、日本国内の製鉄所4か所で鋼材の積荷役(つみにやく)を行い、インドまで輸送するというのがミッションです。

今回は内航海運会社出身の屋山と、NMBに入社してまだ半年ほどの女性社員2名(Sさん、Yさん)の、計3名で訪船しました。私は内航の船会社に10年ほどおり、工務監督も務めていたことからある程度見ればわかると思っておりましたが、内航と外航の違いもあるであろうと非常に楽しみでした。女性お二人は貨物船に乗り込むのは初めてです。

1.船体外観 “Hull”

乗り込む前にまずは外観を拝見させていただきましたが、とても綺麗に整備されていると感じました。女性お二人も大きな船体に大興奮!本船はバウスラスター(「バウスラスターとは?」参照)を装備しておらず、推進力としては船尾のスクリュー1基のみです。すでに積荷を多く積んでおり、脚が入って(船体が海中に深く入った状態)いたためプロペラは見ることができませんでした。残念。

【画像1】船体外観

【画像2】船に触れる2人

2.船橋 “Bridge”

いよいよ乗船です。まず通されたのは船橋(操縦室)です。船橋は船尾側の上部に位置しており、船全体と前方が見渡せるようになっています。またウイングと言われる船橋から左右に張り出した部分に出ますと、船の後方も見渡せるようになっています。

ウイングに出ますと大きな救命艇が見えました。本船の乗組員は18名で、2隻搭載された救命艇のうち1隻で乗組員全員が乗れるようになっています。救命艇は船の左右に装備されているのですが、本船が大きく傾いてしまって片方の救命艇が海面に降ろせなくなっても、反対側の救命艇で脱出できるというようになっています。

【画像3】船橋

【画像4】救命艇

3.羅針儀甲板 “Compass deck”

船橋の天井部分に位置するのが羅針儀甲板(コンパスデッキ)です。ここにはマグネットコンパスやレーダー、GPSなどの航海機器が装備されています。

大昔、船は磁石を用いたマグネットコンパスと、天文航法(太陽や星の位置で自船の位置を計算する)で船を走らせていたらしいです。それが今ではGPSだけでも本船針路(進行方向)がわかってしまうのですが、今でもジャイロコンパスやマグネットコンパスの備え付けが船の大きさによって義務付けられています。

【画像5】船尾マスト

4.船尾楼甲板 “Poop deck”

船の後方部に位置するのは船尾楼甲板です。ここには主に係船機(Mooring winch)があります。これは船と岸壁をつなぎとめる係船索(Hawser rope)を巻き上げる機械があります。

これ、実は結構危ない機械でして、船を岸壁に引き寄せるにはかなり強い力が必要です。そのため係船機のドラムに巻き込まれたり、破断した係船索に当たって死傷する事故が毎年あります。みなさんは船が止まっていても、むやみに係船索に近寄らないようにしましょう。

【画像6】係船機

Sさん

船を案内してくださった船主様からクイズが出ました。

船をつなぎ止めているロープに取り付けられたこの板は何でしょうか?

【画像7】謎の板

Yさん

正解は“ネズミ返し”というネズミ等の害獣がロープを渡って侵入するのを防ぐためのものとのことでした。

航海において大切な食料を食べられたり、海外に外来種を持ち込んだりしないようにするためとのことでした。

5.上甲板 “Upper deck”

船体の中央部に位置するのが上甲板で、主に貨物艙(Cargo hold)があります。本船の貨物艙は上下2段になっており、下段の貨物艙に貨物を積み終わり、ポンツーンハッチカバー(Pontoon hatch cover)を閉めると上段に貨物が積めるようになります。積み終わったらハッチカバーを閉めて、風雨・波浪から貨物を守ります。

また本船には2基の巨大なクレーンが装備されています。こちらは使用しないときはしっかりと固定して、船が揺れてもプラプラしないようにしてあります。

【画像8】鋼材を積み込む様子

【画像9】鋼材の積み込みの様子を見つめる

【画像10】クレーンのフック

6.船首楼甲板 “Forecastle deck”

船首楼甲板は船の前方に位置しています。ここには船尾楼甲板にあった係船機に加えて、錨と錨鎖(Anchor&Anchor chain)を巻き上げる揚錨機(Windlass)があります。船が接岸したり、沖で停泊したりするときは、海中に錨を落として船を固定します。

【画像11】揚錨機

7.お昼休憩 “Lunch time”

Sさん

船長さんをはじめ多くの乗組員さんが中国の方ということで、盛大にガチ中華を振舞ってくれました。中国の家庭的な味を中心に肉や魚をテーブルいっぱいに作ってくれました。

船乗りさんはエネルギーが必要とのことで、ボリューム満点で味付けも濃く作られているそうです。

後半の研修も頑張れそうです。

【画像12】盛大なおもてなし

Yさん

お客さんを余るほどの料理でおもてなしするのは中国の文化ということを伺いました。前日から仕込みをしていただいたとのことで“Very very 謝謝”です笑

印象に残ったのは中国のお焼き“韮菜合子(ジウツァイホーズ)”です。玉子とニラ、小エビが大きな皮に包まれていて、とても美味しかったです。ごちそうさまでした。

【画像13】韮菜合子(ジウツァイホーズ)

8.機関制御室 “Engine control room”

見学後半は機関関係です。まずは機関制御室に行きました。本船には1基の主機(Main engine)と2基の発電機関(Generator engine)が装備されており、これを動かすための燃料油や潤滑油・冷却水を循環させる多数のポンプがあります。これらを制御するのが機関制御室です。大きな船になると発電機やポンプ(大きさによっては主機も)2基ずつ装備されています。これは仮に1つの機関やポンプが故障しても、もう一方を運転すれば航行を継続できる“冗長性”を担保するために、多くの機器が2台ずつ装備されています。

【画像14】機関制御室

9.機関室 “Engine room”

いよいよ機関室です。本船は前述の通り、主機1基と発電機関2基を備えており、いずれも日本のエンジンメーカーが製造しています(本船自体も日本の造船所で建造されています)。

ところで、みなさんは船がどうやって「停止」するかご存じですか?船には自動車と違って「ブレーキ」がありません。そのため船を止めるにはプロペラを反対に回転させ、船前方方向に水流を発生させて勢いを止めます。このとき実は、主機自体は前進時も後進時も回転方向は同じです(※直接逆転を除く)。主機の回転運動を逆方向に変換する、逆転機(Reversing gear)というものがあります。つまり、主機は右回転しているけど、プロペラは左回転しているという状態にできるのです。よくできていますよね。ほかにも可変ピッチプロペラ方式(Controllable pitch propeller, CPPともいう)などありますので、別の機会にご紹介できれば。

【画像15】主機

【画像16】発電機関

10.舵機室 “Steering room”

最後になりましたが、舵機室にやってきました。舵機とは船の舵(Rudder)を動かすための装置です。舵とは簡単に申し上げれば、主機とプロペラで発生させた水流を舵という大きな板にぶつけて水流を曲げ、船の進行方向を変えるためのものです。

舵を動かすには大きな力が必要で、油圧装置の力で舵の向きを変えます。

【画像17】舵機

11.所感

Sさん

今回初めての訪船で内部も初見で興味津々でした。

今まで船といえばフェリーなど客船しか乗り込んだことがなく、今回は多目的船ということで実際に鋼材を運んでいる場面も見ることができ貴重な体験ができました。

貨物艙がツインデッキで2層に分かれているので、たくさんの荷物を運べる便利な反面、多目的船なのでそれぞれ貨物の取り扱い方が異なり、積み込む順番なども重要になってくるので大変だと伺いました。

Yさん

自分たちの仕事の大元である船を見学したことで、より仕事に対する向き合いかたや気持ちの持ち方が、見学の前後で大きく変わりました。

船の心臓部であるエンジンルームは発電機の音が大きく、あそこで指示を出すのは難しくプロじゃないとできない仕事だなと思いました。

船長さんをはじめとする船員さんたちは、外国人である我々にやさしく接してくださり、良い思い出になりました。

屋山

小職は内航海運の会社に10年ほど在籍しまして、船を見ると少し懐かしい気分になりました。会社におりますと日常業務に追われ“潮気”が抜けていたように思います。海運会社をルーツに持つことを誇りに思い、慣海性“Seamanship”に則り業務を遂行したいと思います。

訪船を受け入れてくださった船主様、船長をはじめとする船員の皆様にこの場をお借りして御礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。

また最後までご拝読いただきました皆様、ありがとうございました。また次の記事でお会いしましょう。