海運のナレッジ

債権保全策(前編)

債権保全策は商売上最も重要な施策の一つです。

これは今も昔も変わることはありません。

先日開かれたG7広島サミットの開催場所はその昔宇品造船所という老舗の中堅造船所があったところです。

当時その造船所に船舶のラダー(舵)を納めていました。

宇品造船所から注文を受け、それをIHI呉工場に下請け発注するという構図でした。

1977年11月のある土曜日(当時,土曜日の午前中はWorking Timeであった)朝一番に東京本社の審査部より“取扱注意“という注釈付きで「どうも宇品造船がやばいらしい」という情報が入った。

まず私が採った行動は、納入済みだが代金は未回収の舵に関する注文書/納品書等が全て

揃っているかどうかのチェック。(幸いその点は問題なかった)

更に、受注済みであるが未だ納品してない舵があるかどうかをチェックしたところ、何と正にその日の夕方納入予定の舵が1基あることが判明。

このまま納入されると万が一の場合、裁判所より財産保全命令が発出され不良債権化するのではないか? 

一方一旦納入をストップし、会社更生計画が認められてから納入すれば更生債権として優先的に代金の支払いが受けられるはず、と考えた私は即座に製造元であるIHIに今日の舵の搬出を延期するよう申し入れた。 

IHIとしては既に運搬用の艀を準備しており、クレーンで釣り上げてその艀に舵を載せるだけとなっていたため延期する理由をしつこく聞いてきたが、事が事だけに、「ともかく言うことを聞いてもらいたい」とだけ言って無理やり延期してもらった。 

このような措置を採ったところでその土曜日は終わった。

翌日曜日の朝、やはり気になったので宇品造船に出向いてみた。

もちろん日曜日は造船所も休日で正面玄関の門は閉まっておりいつも聞こえる金属音もなく静かで、倒産するかもしれないという社内情報はガセネタではないかとさえ思えた。

その矢先、突然正門が開いて中から黒塗りの乗用車が一台出てきた。

その乗用車の後部座席には背広にネクタイ姿の男性が風呂敷包みを大事そうに膝の上に置いて乗っていたので、ひょっとしてこれは会社更生法適用申請用の書類を持参する弁護士が乗っていたのではないかとの思いがふっと浮かんだ。

翌月曜日広島市の八丁堀にあった事務所に出社すると朝一番に裁判所より宇品造船所及び関連造船所である金輪ドックに対し財産保全命令が出されたとの報告を受けた。 やはり本社からの情報は正しかったのだ。

ちなみに、私が納入を直前でストップさせたことは債権保全の教科書的行動として当時の上司のみならず本社の審査部からも大いに称賛されたものであった。

納入済みの舵3基分の価格は2,400万円、未納1基分の価格は800万円 計3,200万円の関連債権であったがその後その債権はどのようになったか? 

(後編に続く)。 

執筆者:マリタイムバンク営業部