海運のナレッジ

船舶検査|英国検査会社インタビュー "IDWAL"

またまたパワンです。前回のスクラップ・ヤードギフト・シティーについてのブログは参考になりましたでしょうか?今日は船の検査についてお話したいと思います。きっと皆さんは船の検査と聞いてもピンとこないと思いますので、可能な限り分かりやすく説明できるよう頑張ります。

船の検査のことを「検船」と呼びます。そして、検船をしてくれる会社のことを「検船会社」と呼びます。今回は、マリタイムバンクが融資する前にお世話になっている検船会社IDWAL社にインタビューをさせていただきました。インタビューを通して皆さんに検船の事をもっと知ってもらい、なぜIDWAL社を使って検船をしているのかもご紹介したいと思います。

  • 検船の重要性とは?

皆さんが家を買いたいと思った時、購入前にその家を見に行きますよね?写真だけを見て家を買うのはとても危険だということはイメージできると思います。しかし、早く売りたい売主さんは、あなたに買ってもらおうと良い写真しか見せない可能性があるからです。

船も同じです!船は1隻で10億円以上もする高価な買い物ですので、実物を一回も見ないで購入するなんてあり得ません!

  • なにを検査するの

船を知らない素人が見に行っても意味がありません。船の構造が分かるプロフェッショナルが検査官として、船の船首から船尾、艦橋から船底まで、全エリアをチェックする必要があります。隅から隅までチェックするので通常8〜12時間も乗船する必要があります。

検査項目は

  • 目視による状態のチェック
  • 航海日誌やエンジンログブックからの運航記録チェック
  • 証書や図面のチェック
  • レーダーやクレーン、エンジン類を実際にデモンストレーションして動作チェック

など多岐にわたります。

実際の検船の様子

  • 実際の手配は? なぜ検船をする専門の会社があるの?

家を見に行く事に比べると、船を見に行く事はさらに大変です。なぜでしょうか?それは船は動き回るからです。悪天候や港の混雑具合で、船が予定通りに入港する事は稀です。ちょうど今、マリタイムバンクはタンカーをメキシコで検船しようとしています。検査官が飛行機で港に到着しましたが、2日経っても船は入港せず、結局検査官は他の仕事もあるので諦めて帰ってしまいました。メキシコで検船できないので、次の港で検船する事になりますが、国が変わるので入国手続きから乗船手配まで、全く新しい手順で進めなくてはいけなくなります。この煩わしい検船を一手に引き受けてくれる検査会社は我々にとって大変ありがたい存在です。

マリタイムバンクはIDWAL社に検船を依頼しています。(https://www.idwalmarine.com) 投資家の皆さんが出資する船の状態をチェックする大切な仕事を任せている訳ですから、IDWAL社の事をもっと知りたいですよね? 早速、社長のニックさんにインタビューで聞いてみたいと思います。

IDWAL社:ニック氏

  • IDWALとはどのような会社ですか?

ウェールズ最大の都市カーディフを拠点とするIDWALは、2010年にGraig Shippingの1部門として設立された検船を専門に取り扱う会社です。

  • 毎年、何隻の船を検船していますか

IDWALは毎年3000隻以上の船を検船して、4500件以上のレポートを作成しています、これは実に世界で売買される船の半分をIDWALが検船している計算になります。これだけの取り扱い実績があるからこそ、多くの検査官と提携できています。世界中に配置している検査官の中から一番近い場所にいる検査官を選ぶことで、短期間に安価な検船が実現できるのです。

  • IDWALの検船レポートは他とどう違うのですか?

ユニークなポイントはIDWAL GRADEという船の状態をスコア化している点です。このIDWAL GRADEは500以上の検査項目を採点して算出され、船舶の状態を1〜100の点数で簡単に可視化できるサービスです。IDWALでは、どの検査官が検船しても同じ基準に基づいた採点を出せるよう管理しているので、検査の依頼主が買主であろうと売主であろうと、IDWALでは関係なく中立的なレポートを出せることができます。

さらにその検船レポートや写真をIDWALが提供するウェブ上のプラットフォームから一元管理・ダウンロードできるサービスも提供しています。IDWALが世にでる前は、バイヤーごとに検査官が訪船して検査していたので、1隻の売買で何回も検船が行われていました。これは売主、買主双方に大きな負担を強いるものでした。しかしIDWALでは一回検査することで、中立的なレポートをウェブ上からダウンロードできるようになり利便性が大きく向上しました。

弊社が先日検船したAHTSは16歳でIDWAL GRADEのスコアは77点でした。一見100点満点中の77点だと「低いスコアでは?」と思ってしまいますが、16歳の中古船ですから最高が100点というのはありえないですよね。実際、この船は良い状態なのですか?悪い状態なのですか?  (※AHTSについては、詳しく説明している記事がありますので、まだの方はそちらも是非!)

過去に検船した船のデータベースからスコア分布図が表示される仕組みがあります。実際のスクリーンショットを見て説明しましょう(下記グラフ参照)。縦軸がIDWAL GRADEのスコア、横軸が船齢になります。無数にある灰色のドットはIDWALが今まで検船したAHTSのスコア分布です。そして黒いドットが、マリタイムバンクが検船したAHTSになります。点線は平均点を表していて16歳のAHTSの平均点は概ね70点、最高得点でも82点といったところですから、77点というのは概ね良いコンディションと言うことができますよ!

IDWAL社のスコア分布図

ニック社長は大変若く気さくなナイスガイでした。IDWALは、検船という昔ながらのサービスにデジタルを組み合わせることで、今までにない使い勝手の良さを我々に提供してくれる大切なパートナーです。マリタイムバンクではIDWALの検船結果をマイページで紹介していますので、是非注目してみてください!