海運のナレッジ

海運の環境問題

新聞、テレビなどで「環境問題」を耳にしない日はなく、我々海運人のみならず、海運への「投資家」にとっても大きな関心事でしょう。

そこで平易に、分かり易く海運が直面する環境問題を取り上げてみます。

先ずは、紙上報じられる「パリ協定」などはとも角として「地球温暖化」の原因となる環境負荷物質の1つのGHG(Greenhouse Gas)の「温室効果ガス」の削減で、海運も避けて通れません。

国際的な海運の環境への取り組みは、法的拘束力(条約)を持つ国連下部組織のIMO(国際海事機関)において2018年4月に採択された「GHG削減戦略」が基本です。そこで2050年を目標にGHG(実質CO2)排出量を2008年比50%以上削減することが決議されました。しかし、その後の世界の脱炭素化の動きは急で、現在海運もほぼ2050年にGHG排出ネットゼロ、即ちカーボンニュートラル(CN)に向かって進んでます。

多岐に亘る「環境問題」を海運についていえば、船の推進エンジンから排出される燃焼後のガスにGHG=CO2が多く含まれているのです。CO2以外にもSOx(硫黄酸化物)や無機物のNOx(窒素酸化物)、メタンも一緒に排出され、既にSOxは2020年1月から、NOxは今年1月からIMOで法的に規制されています。SOxは、VLSF(Very Low Sulphur Fuel)を使うか、スクラバー(SCR)を装備して硫黄分を取り除くかです。

一方、NOxは自然界に元々存在するものですが、燃料中の窒素成分が燃え厄介な窒素酸化物が生成されます。それを排ガスから事後的に取り除くか(SCR方式)、エンジンに再循環させて削減するか(EGR方式)で、いずれでもNOx対応のエンジンに新替えが必要で、かなり費用がかさみます。問題は二酸化炭素CO2です。

ところで、海運界からどの位CO2が排出されているかです。全世界のGHG排出量は約335憶㌧で、その内船からの排出量は7/8億㌧(世界全体の約2.2%)と推測されてます。これだけでは多いのか、少ないのか判断しかねますが、ドイツ一国分に匹敵するといわれてます。因みに、、国別の排出量は、中国(32.15%)が断トツで、次いで米国(13.6%)、インド(6.8%)、ロシア(4.9%)、日本は5番目(3.2%)です。一般的にCO2排出量の多い産業は、鉄鋼業、石油・石油化学業界、セメント業界などが挙げられます。

ここから各論に入ります。

CO2排出削減には、先ずはエンジン自体の燃焼システムを改善するか、使用する燃料を変えるかですが、その両方の組み合わせのハイブリッドも当然ありです。

従来の化石燃料(主として重油)に代わる燃料源としては、現在LNGとメタノールが主流で、比較的大型船に使われてますが、それぞれの重油比のCO2削減効果は、LNGが20~30%、メタノールは約15%で、ゼロではありません。バイオ燃料を含むいろいろな合成燃料やCO2ゼロのアンモニアも良く耳にしますが、未だ実証段階です。

製造コスト、供給ソースも含めて究極何がベストな代替燃料か、船型、船種によっても異なり、模索している段階といえます。自動車のF1レースでは既に水素燃料自動車が走っていますが、船で究極の「水素燃料」に辿りつくのは一体いつでしょうか?

余談ですが、アンモニアと水素の舶用燃料用途については、先ず両方の重油に対する燃料体積が著しく大きい欠点があります。アンモニアは約2.7倍のタンクが必要で、水素は更に4.5倍で、それだけ積み荷が減ることになります。

また、アンモニアは温室効果ガスCO2の300倍と言われているN2Oの発生による毒性も心配です。他方、水素は貯蔵温度もマイナス235℃が必要で、バンカリング技術も必要と言われており、前途多難です。

それでは、CO2排出削減に向けた船に適用される規則がどうなっているかみましょう。それが昨年6月のIMOの下部機関のMEPC(海洋環境保護委員会)78で決まったEEXI(エネルギー効率現存船指標)とCII(燃費実績格付け制度)の2つです。

字面は何か技術的に難しそうに聞こえますが、既存船に対する世界共通で適用され、既に本年1月以降適用されています。現在海運界はこの2つの制度の実施で、大忙しです。

EEXI(Energy Efficiency Existing Ship Index):

各船の技術的側面から燃料性能を事前に検査・認証する制度です。各船の燃費性能の検証結果で基準を下回れば、エンジンの出力制限(スピードダウン。船の燃料消費はスピードの3乗に比例するといわれます)などが義務化されます。

CII(Carbon Intensity Indicator):

各船の燃費実績を毎年評価・格付けするする制度です。各船にĀ~Eの5段階の格付け評価し、DとE評価だった船については改善計画を提出させ、事後改善が義務化されます。

このEEXI/CIIの両方が相俟って燃料からのCO2削減目標を実現しようとするものです。尚、新造船に対するCO2排出削減は、既に2013年1月以降エネルギー効率設計指標(EEDI – Energy Efficiency  Design Index)が適用され、全船この基準に従って建造されています。

次に、燃費削減の具体策を見てみましょう。特にオイルショック以降造船界の協力を得ながら、推進・運航効率の最適化を目指して「次世代省エネ技術の開発」が積極的に進められています。

いろいろなデバイス(付加物なお)の開発も進めてます。ここでいくつかの事例を紹介しましょう。プロペラ前後に二重反転プロペラ(CRP)やプロペラボス(PBCF)などの装着が代表例です。また、船には走航中いろいろな抵抗が生じますが、船首・船尾部の形状を変えたり、空気潤滑法といわれる装置を付けたりして推進効率の向上を図ってます。

風圧抵抗低減のために帆を張ったり、枚挙に暇がありません。最近では、船上で直接排気ガスからCO2を回収する装置を付ける技術も開発されてます。

以上縷々海運における環境対策をのべましたが、最後に一言、最近の世界の船の建造のピークは2010年前後で、これら高齢船のスクラップや代替の期限が2030/35年に到来します。

市場でのECO船と非ECO船の二極化により、その時期が早まるかも知れません。海運業界は今後も、多大な労力と資金を必要とする時代を迎えます。

執筆者:日本マリタイムバンク営業部