海運のナレッジ

バングラデシュ出張記!船舶解体の現状と今後の課題

 日本マリタイムバンクの阿部です!

 以前私とパワンがインドのスクラップヤードに訪問した際のブログを書かせて頂きましたが、なんと今回はバングラデシュのスクラップヤードに行ってきましたので、その出張記を今回書かせて頂きます!(以前の記事はこちら:「船をリサイクル?!シップリサイクルの取り組みとやり方」https://blog.nmb.co.jp/blog/vessel/345/「世界最大の船の墓場に行ってみた!(インド出張記)」https://blog.nmb.co.jp/blog/vessel/567/

バングラデシュってどんな国?

 皆さん、バングラデシュという国をご存じでしょうか?南アジアのインドの右隣に位置する国で、面積は約14万7千平方キロメートル(日本の約4割)、人口は約1億7千万人(2022年時点)となっており、首都は国土のほぼ中心に位置するダッカ(Dhaka)になります。宗教は国民の9割近くはイスラム教徒で約1割は仏教徒となっています。他のイスラム国家同様、街中ではイスラム教の礼拝時間を呼びかけるアザーンが聞こえてます。食事はインド同様右手で食べ物をわしづかみして食べますが、ヒンドゥー教徒ではないので魚や豚肉はもちろん、牛肉を使用した伝統料理も多く存在します。インドみたいに街中に牛もいません(笑)ただし、イスラム教徒ですので豚肉を食べる事はご法度です。隣国のインドとこんなにも食文化が違うのかとちょっとびっくりしました。

 ちなみに、バングラデシュの有名な産業は何か思い浮かびますでしょうか?恐らく繊維産業を想像される方が多いのでと思います。衣料品輸出額の国別ランキングでは、中国に次ぐ世界第2位にランクインしており、アパレル産業大国とも言われています。ユニクロを展開しているファーストリテイリングもバングラデシュのアパレルビジネスに多額の投資を行っているのは有名な話ですね。せっかくバングラデシュに来たという事で縫製工場の見学もしてきました。誰もが知っているような有名なブランドの服がたくさん作られていました!

バングラデシュ国内の縫製工場の様子

シップリサイクル条約とは?

 バングラデシュのスクラップヤードについてお話する前にある国際条約についてお話させて頂きます。「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約」という通称“シップリサイクル条約”が2025年6月26日に発効されます。この条約が何なのかと言いますと、簡単に言えば船は定められた機関により承認を得た船舶解体施設、通称”グリーンシップヤード”と呼ばれる海洋汚染や労働環境に配慮しながら船を解体できるような取り組みを行っているスクラップヤードでなければこの条約が発効されてからは船舶を解体することが出来なくなります。現在インドで稼働しているスクラップヤードはほぼこのグリーンシップヤード化が完了していますが、バングラデシュはどうなっているのでしょうか?後程ご説明させて頂きます。

ついにバングラデシュのスクラップヤードへ!

 バングラデシュのスクラップヤード地帯はダッカから南東に位置するチッタゴン(Chittagong)にあります。チッタゴンから約300km南には有名な海岸線が100km以上続く世界最長のロングビーチ「コックス・バザール」があります。

チッタゴンの位置

 ところで、バングラデシュのスクラップヤードと聞いてどのようなところを想像されますか?私は以前バングラデシュのスクラップヤードの実態を撮影したあるドキュメンタリー映画を観たことがあるのですが…浜辺に乗り上げた船を鉄くずやごみ、燃料までもが海に流れてもお構いなくガス切断で船を解体していき、切断した鉄板をヘルメットも被っていない労働者が裸足で鉄くずの上を歩いて運んでいる様子であったり、小さい子どもが少しでもお金を稼ぐために大人同様の肉体労働をしていたり…とにかく想像ができない様なめちゃくちゃな様子を目にしました。しかしシップリサイクル条約が発効されることによって、このようなめちゃくちゃな船舶解体の仕方や労働環境ではいけませんよとなったわけです。それでは現在のバングラデシュがどう変化しているのか見ていこうと思います!

 今回はバングラデシュ国内で最も大きなスクラップヤード「S.N. Corporation」を訪問してきました。こちらは2023年3月にグリーンシップヤードの承認を得たスクラップヤードで、現在チッタゴンに6カ所のスクラップヤードを保有しています。年間で合計約150万トンの船を解体する事が可能だそうです。あいにくの雨でしたが、保有しているヤードのうち一番大きいヤードを見学させてもらいました。

 燃料等の環境汚染につながるものを船上からすべて取り除き、このように大きく切断してクレーンで陸上に運びます。この大きく切断されたかたまりを“ブロック”と呼びます。その後コンクリートで綺麗に舗装されたバックヤードと呼ばれるブロックを細かく切断する場所に持って行き効率良く残りの切断作業を行います。

 バックヤードの様子です。少々見えづらいですが、労働者はきちんとした作業着はもちろん、ヘルメットや安全靴等の安全装具もきちんと身につけていました。写真でも見ての通り、多くの重機を用いて作業を行っており、想像していた人海戦術の様子のかけらも感じることはできませんでした。整理整頓もきちんと行っております。

ヤード内に病床もありました。専属の医者が常時スタンバイしており、24時間対応可能との事です。

毎朝このトレーニングルームで15分程安全に関するミーティングを行った後作業を開始するそうです。

事務所の裏には農園があり、労働者に提供する為の野菜や果物を栽培していました。宮崎マンゴーも栽培しているとの事です。まさにグリーン化ですね!

労働者用の居住区も工場内にありました。こちらは現在約300人が住んでいるようです。

今回このお2人に工場案内をして頂きました!

バングラディッシュの今後の課題

 いかがでしたでしょうか?写真ではなかなか伝わらない部分もあるかもしれませんが、想像以上の早いスピードでバングラデシュのスクラップヤードの環境整備が進んでおりました。とは言え、この様な進んだスクラップヤードだけではないというのも事実で、バングラデシュで稼働している約40社のスクラップヤードのうちグリーンシップヤードの承認を得ているヤードは同社含め2024年5月時点ではたった4社しかありません。2025年6月末のシップリサイクル条約が発効されるまでにはバングラデシュ国内のグリーンシップヤードは10社ぐらいに増えるだろうと予想されていますが、全てのスクラップヤードが間に合うわけではなさそうです。理由は明白で、グリーンシップヤードの承認を得るには多額の設備投資を行う必要があります。まだ発展途上国の位置づけとなっているとなっているバングラディッシュでここまでの設備投資を行う事は簡単な事ではありません。しかしバングラディッシュ国内の鉄需要60%~70%は船を解体して得た鉄となっているようで、バングラディッシュ経済成長のカギはこの船舶解体ビジネスであると言っても過言ではないのです。今後マリタイムバンクがどの様な形でバングラデシュのスクラップヤードをサポートできるのか模索できればと思っております。

 同社CEO Mohammad Barkat Ullah氏と面談させて頂き、バングラディッシュの現状について教えてい頂きました。

 それでは長くなりましたが今回はこの辺で。次回の投稿もお楽しみに!

執筆者: 阿部廣