FSUという船とは何?
2020年4月に原油価格の指標であるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)が史上初のマイナス価格になりました。今では信じがたい話ですが、その当時は原油が投げ売り状態で、原油タンカーが積んできた原油も港で荷下ろしができなくなる事態になりました。多くの原油タンカーが仕方なく洋上で浮かぶタンク状態になる事態になったことがありましたが、これはなにもタンカーに限った話ではなく、コンテナ船も港で止まっている間は浮かぶコンテナヤードになるのと同じことです。
そうではなく原油もしくは液化天然ガス(LNG)をはじめから海上で長期間貯蔵することを目的にしている船をFSU(Floating Storage Unit)と呼びます(正確には船ではなく海洋構造物で、日本語訳は浮体式貯蔵設備です)。沖合の産油地域や港近くの洋上で大量の液体貨物を貯蔵することを可能にするFSUの基本的な構造は貯蔵するものが原油であれば原油タンカー、天然ガスであればLNGタンカーに似ています。そのため、わざわざ新しいFSUを造船所で建造するよりも、中古の原油タンカーもしくはLNGタンカーをFSUに改造する方がコスト的にも時間的にも圧倒的にメリットがあるので改造されるケースがほとんどです。日本の造船所ではほとんど実績がないFSUの改造ですが、例えばシンガポールの造船所は付加価値のあるFSU改造で有名です。
天然ガスのFSUは、洋上で約-160℃のLNGを受け入れて貯蔵することができますが、再ガス化設備を持ちません。FSUと陸上の再ガス化設備、あるいはFSUとFRU(Floating Regas Unit・再ガス化装置)を組み合わせてLNGを受け入れることが可能となります。
さて、FSUはロシアによるウクライナ侵攻以降、エネルギー供給源の多様化を迫られたヨーロッパで一目を置かれています。ロシアから海底パイプラインで輸入する天然ガスに代わる手段として、アメリカや中東から海上輸送で天然ガスを輸入する必要性が高まっており、この状況に対応するためドイツを中心にFSUの導入を進めています。前述の通り、新たに陸上に貯蔵施設を建造するよりは低コストで設置が可能なことが理由ですが、FSUの船主にとって十分満足な傭船料をもらえているのでWin-Winな関係と言えるでしょう。