日本は島国なのに海運に関心が低い?!「海事クラスター」とは?
「海事クラスター」という言葉をご存知ですか?
こんにちは、マリタイムバンク営業部です!
突然ですが、「海事クラスター」という単語をご存知ですか?
船舶ビジネスの世界を知る上で覚えていただきたい単語の一つです!
クラスターは、もともと花やブドウの房(クラスター)を指す言葉で、海運・造船産業が直接・間接さまざまな周辺産業群がブドウの房のように隣り合い、密集して成り立っていることを示しています。新型コロナウイルスのニュースでよく聞く単語になりましたね。
海運でいうと、造船業、舶用工業を中心に金融、法務、保険、商社、ブローカーなどさまざまな業種を包含する広い概念で、世界ではノルウエーが先駆です。
日本で有名なのは愛媛の今治地区。
世界トップクラスの規模と能力を有する「海事都市」として、また、西日本最大の国際海事展『バリシップ』開催の地としても良く知られています。
今治というと「今治タオル」が有名ですが、瀬戸内海に面しているため海運業も有名なのです!
瀬戸内水軍の歴史
今治地区の海運・造船の始まりは、歴史を遡ると、海賊として知られる瀬戸内水軍が活躍した平安時代といわれています。「海賊」の文字から、北欧のバイキングが海上で略奪を働く戦士のイメージを思い浮かべますが、瀬戸内水軍(村上水軍がよく知られています)は文字通り海の支配者のみならず、むしろ海上における厳格な規律で安全航行に資していたと伝えられています。
我が国は爾来、海洋民族としての“自尊心“をもって「海洋国家」としての歴史を営々と築き上げてきたともいえるのではないでしょうか。
翻って、日本の今日の海運・造船の立ち位置を見てみると?
四囲を海に囲まれた我が国の海運産業は、魚好きの国民性にも拘わらず、意外と関心度が低いのではないでしょうか?
海運業は世界貿易の98%を担うので、決して無くならない空気のような存在で、普段意識する人も余り多くは無いのでは?
他方、造船も50有余年世界一を誇ってきましたが、中国の三国志に準るわけではありませんが、中国に抜かれたのが2009年、翌2010年には韓国にも越され、造船の「赤壁の戦い」は今や中韓の2強の時代です。
世界に誇れる最大・最強の軍艦「大和」「武蔵」を建造した日本の造船業を誇りに思う人も少なくなりました。重厚長大の造船業は、船舶の代替燃料を何にするかなど数多くの環境規制が待ち構えており、我が国の強みを生かした技術革新が必須で、中韓との熾烈なコスト競争の下でどう差別化を図り生き残るか、喫緊の課題です。
現実論に戻しましょう
海運業はよく「懲りない市況産業」と揶揄されることがあります。
”Buy low Sell high”と簡単にいいますが、市況循環を逆手に取って「逆張りの投資」の決断をすることは容易ではありません。
経験則から言うと、恒常的に船腹過剰に陥り易い特性があるのです。船腹に対する需要と供給の時間差が主因といわれます。船の種類にもよりますが、通常2、3年のギャップがあり、これは船建造のリードタイムの長さです。
最近のように、予期せぬ地政学などのリスクが高まる市場にあってはなおさらです。新造船発注量の既存船に対する割合の平均値のほぼ10%を目安として、どの船種部門が過剰か、均衡に向かうか、老齢船の割合を含めて注視しておく必要があります。
船は陸上産業と異なり、減産などの操業度調整は、係船※なりスクラップ(廃船)しか手立てがありません。
いずれにせよ、現在海運業界では環境規制の厳格化、特に炭素税の負荷など欧州域での独自の規制強化が進んでおり、海運市場は自ずと二極され、スクラップが促進されることになることが予想されます。
※係船:船の運航を一時的に停止して港に係留すること。
おわりに
船長は、大海原で大しけに遭遇した時近くの港に避難することもありますが、時には目的地へのETA(到着予定日)を厳守するために「逆潮に突っ張り」航海を続ける必要があることも多々あります。アリューシャン沖で数日間荒天に遭遇、大揺れで乗組員の食事もままならず、止むを得ず短時間大圏航路を外れ追い風南進、その間に乗組員一斉にカレーライスを早食いし現場に戻った経験があります。
海運は正に社会の重要なインフラですが、市況という荒波もこのような乗組員の必至の努力に支えられているのです。