マリタイムバンクのロゴ「いろは丸」沈没事件に学ぶ交渉術
マリタイムバンクのロゴにある船って?
坂本龍馬が乗船して航行中に、紀州藩の船と衝突して沈没した「いろは丸」という実在した船をモデルにしています。沈没した船なんて縁起が悪いので、普通の思考回路だと会社のロゴに使わないですよね(笑)。なぜマリタイムバンクのロゴがこの「いろは丸」なのか、ご紹介したいと思います。
いろは丸沈没事件(ウキィペデア「坂本龍馬」からの抜粋)
4月23日晩(1867年)、大洲藩籍で海援隊が運用する(一航海500両で契約)蒸気船「いろは丸」が瀬戸内海中部の備後国鞆の浦沖で紀州藩船「明光丸」と衝突し、「明光丸」が遥かに大型であったために「いろは丸」は大きく損傷して沈没してしまった。龍馬は万国公法をもとに紀州藩側の過失を厳しく追及。さらには「船を沈めたその償いは金を取らずに国を取る」の歌詞入り流行歌を流行らせるなどして紀州藩を批判した。後藤ら土佐藩も支援した結果、薩摩藩士・五代友厚の調停によって、5月に紀州藩は「いろは丸」が積んでいたと龍馬側が主張したミニエー銃400丁など銃火器35,630両や金塊や陶器などの品47,896両198文の賠償金83,526両198文の支払に同意した。
この出来事には、船のビジネスの交渉術が詰まっています!
万国公法をもとに紀州藩側の過失を厳しく追及
もうメールや電話では解決できないので直接会って問題の打開策を話し合いましょう、という様なシチュエーションは現在の海運ビジネスでも良くあります。そんな時、やたら海事法と判例を持ち出して、「このまま裁判したらあなたが負けることは火を見るより明らか、このままいくと〇〇〇〇$の賠償金は払うことになりますよ!」から始めるのは一つの交渉術です。
裁判なので本当に相手が負けるかどうかなんて分かりません。でも、そんな事はお構いなしにそう言った前提条件を作り上げるのがポイント。実際にいろは丸の場合でも、いろは丸側に回避義務があったと言われていて、裁判になって負けていたのは坂本龍馬の方だったかもしれません(下記参照、いろは丸は図の左側の船に該当)。
これは対面でのみ発動できる交渉術です。仮に坂本龍馬がメールで万国公法を持ち出していたら、紀州藩が専門家と調べて真実を知ってしまう時間的猶予を与えてしまうでしょう。持ち帰られても困るので面談中に「まあ…ウチも裁判する労力を考えるとやりたくないし、結局弁護士だけが儲かるだけでお互いメリットないですよね… 例えばこんな条件を受けてくれればこの件は妥協しようかと思うんだけど、どうかな?」のように進みます。
歌詞入り流行歌を流行らせる
これは高等な交渉術です。現代では、海運業界の人なら誰もが読んでいる情報誌TRADE WINDの記者にこちらの主張を記事にしてもらうというテクニックがあります。記事の使い方は色々あるので一概に言えないですが、例えば当局や関係当事者達の心証を動かす間接的な目的の場合や、もっと直接的に「あらあら、うちらの問題が世間に出回ってしまいましたね…これ以上話題が大きくなると困るからそろそろ手打ちにしましょうか?」のように交渉する場合もあります。
龍馬側が主張したミニエー銃400丁など銃火器35,630両
1980年代に海底でいろは丸の船体が見つかったそうですが、実施された調査では坂本龍馬が主張した銃火器は見つからなかったそうです。つまり賠償金を吹っ掛けたという事です。自分程度の小物だと最初の「これくらいで手を打ちましょうか」の時点から賠償金を吹っかけるなんて無理な芸当だと思います。坂本龍馬の交渉術には脱帽でが、それが原因で暗殺されたという説もあるので、欲はかくものではないですね(笑)。
坂本龍馬のいろは丸をめぐる駆け引きには、最近の日本海運業界ではなかなかお目にかかれない大胆さを感じます。マリタイムバンクを始めるにあたって、何か象徴的なものをと思って探しているうちにこの沈没した縁起の悪い船を選びましたが、結局単に坂本龍馬が好きなだけです。
執筆者:代表 昼田将司
参考記事【9月5日投稿マリタイム小話】
船の右側!左側!は業界ではもっともらしく右側の事をスタボード・サイド(Starboard Side)左側をポート・サイド(Port Side)と呼びます。ちなみに船首はステム(Stem)船尾をスターン(Stern)です。船には「スタボード優先の原則」があって、衝突しそうになったとき進行方向左側にいる船が避けなければいけないルールがあります。夜になるとスタボード・サイドに緑色、ポート・サイドに赤色の航行灯をつけて航行するのは、暗闇の中で前面に赤色の航行灯が見えたらあなたが避けなければいけない事を直感的にわかるようにしたもので同じルールは飛行機にも適用されています(羽の右と左にそれぞれ緑と赤のランプが付いていますよね?)。