債権保全策(後編)
(前回からの続き)
やはり本社からの情報は正しかったのだ。
納入済みの舵3基分の合計価格は2,400万円。 未納1基分の価格は800万円。
計3,200万円の関連債権であった。
ちなみに、私が納入を直前でストップさせたことは債権保全の教科書的行動として当時の上司のみならず本社の審査部からも大いに称賛されたものであった。
その後紆余曲折があったものの結局裁判所によって宇品造船の更生計画が承認され、
小口債権は全額弁済、大口債権は70%切り捨て残りの30%を利息を付けて5年で弁済するというものであった。
従って、我々は納入済みの舵3基分に関しては価格の30%である720万円の回収ができ残りの1,680万円が不良債権となってしまった。
それでは、私の一存で納入をストップさせ社内関係者から称賛された舵はどうなったか?
舵が納入されてないということは「債権は発生してない」、すなわち宇品造船側からすると債務ではないという論理で更生計画上の債権/債務にカウントされなかったが、
そもそもそれは折り込み済みで、私の考えは宇品造船が更生する為には現在受注している船の建造を続行するしかなくそのためには当然この舵も必要になり、その時点で納入すれば更生債権として優先的に全額支払いが行われるはず、というものであった。
ところが、何とその舵を搭載する予定だった船舶の発注者(香港の船主)が建造契約をキャンセルしてしまったのだ。 と言うことは、この舵は宇品造船にとってもはや必要のないものであり当然納入の依頼もなく結局無用の長物(単なる不良在庫)となってしまった。
そうなると哀しいもので舵は単なる鉄(鉄の中でも価値の低い鋳鉄)の塊でしかない。
この舵の重さは約20トン。
製造者であるIHIには契約通り全額代金を支払ってたので
保管場所を提供してくれてたが、納品の見込みが無くなった以上迷惑をかけられないということで鞆の浦(福山市)の伸鉄工場にスクラップとして売却。
その価格は何とたった40万円。
舵の解体(トラックに積める大きさにカットする)費用及び呉から鞆の浦迄の運送費を負担すると残念ながら1円も残らなかった。
もし何も考えずに舵の納入をストップすることなくそのまま造船所に運び入れておれば30%に当たる240万円は回収できたものをなまじ教科書的対応をしたばかりに800万円が丸々損金となってしまった。
ただ不思議なのは、このような結果になっても私のこの時の教科書的債権保全判断に対する好評価は変わることはなかった。
以上
執筆者:マリタイムバンク営業部