海運のナレッジ

「投資」と「シッピングサイクル」

今日は、船舶の収益面でのお話です。

「船舶投資」と聞いても海運業界の方でなければピンと来ないはずです。少し専門的にはなりますが、これを読んで少しでも「そうだったのか!」と思っていただけると幸いです。

「船舶」は運ぶだけ?

海運業は、文字面からは船舶という手段で物資や人客を大量輸送する「用役」を提供するサービス産業ですが、収益面から見ると船舶を第三者に貸与するなり、船舶そのものの売買で収益を上げることも含まれ、「投資」という観点から見ることも必要です。

船舶は経済的価値から見ると、新造船を建造するにしても、中古船を購入するにしても比較的大きな金額を必要とし、「金食い虫」といえます。船舶は法律上「動産」ですが、土地建物などの不動産と同様の登記登録制度が確立しており、更に世界の七つの海を航行するので、IMOなどの国際的な仕組みで「船籍・旗国制度(registry & flag)」が整っているのもそのためです。

さて、海運市場は、需給曲線を言うまでもなく、貨物と船腹の需給で変動する市況産業ですが、コンテナ船のようなライナーサービスの「定期船市場」と鉄鉱石、石炭、穀物などの大量バラ積み貨物の「不定期船市場」では大いに異なります。

「定期船市場」と「不定期船市場」

「定期船市場」は、今日ではコンテナ船による個品運送で、あらかじめ決まった航路を決まった寄港スケジュールで配船される運航者の独占市場といえます。そのため、伝統的に海運同盟(アライアンス)が組成されており、同業者間で協調・提携などのカルテル行為が許容されてきましたが、現在では貿易自由化から独禁法上厳しい目が向けられており、難しくなってきています。昔は船会社といえばコンテナ船部門が花形部門(出世部門)でしたが、今ではAI化の時代で、仕事の中身が変わっており、むしろ不定期船部門の方が面白いと言う人も多いようです。

一方の、「不定期船市場」は、基本的には世界中どこでも運航者がバラ積み貨物を個々の荷主と取り決めた積揚げ港に輸送するので、その都度個々の荷主との交渉により運賃や傭船料が決まる自由競争市場です。絶えず貨物と船腹の需給により乱高下します。鉄鉱石、石炭、穀物以外に原油、石油製品、液化ガス、自動車などなど不定期船といっても用途にじて船型も多種多様で、一般的には専用船化が進んでますが、自由市場を求めて世界の七つの海を自由奔放に走り回る比較的中小船が不定期船市場の真骨頂で、「トランパー」と呼ばれる所以です。

「シッピングサイクル」

海運市場は、海上荷動き量の変化により変動するといいましたが、昔から一般の商品市場と異なり、景気変動の波が遅れてくるといわれてます。

もう一つ厄介なのは、船を建造するには船台事情にもよりますが、設計、エンジンなどの部品調達など通常建造期間も含めて2、3年のリードタイムが必要なことです。問題はこの時差の間の予期しない市況変動です。その意味で船そのものの売買船には時間差がなく、タイミングだけです。

船舶投資の観点から「シッピングサイクル」をどう読み取るか?

一般的には、小さな波高を繰り返す市況変動の中に、長期的なトレンド(長期的サイクル)と短期的トレンド(短期サイクル)の2つ波があるといわれてます。

地震などの天変地異などは別ですが、穀物市場などの季節的な変動、毎年のことですが貿易大国の中国の春節前後の市場変動やクリスマスシーズンに向けての荷動きなどは良く知られています。

今日では新型コロナの世界的な流行やウクライナ戦争の勃発など地政学的リスクも多々あり、市況変動リスクを事前に察知することはかなり難しくなっています。それでも、長い目で見ると

歴史的・周期的変動があり、8〜10年周期説など諸説があります。現在は、2008年のリーマンショック以来漸く回復期に向かっているという人もいますが、シッピングサイクルのどこに位置しているのでしょうか?

海運市場には、船を動かす燃料として現在の“石油化学系燃料”に代わって次の環境にやさしい燃料を何にするかなどの世界的な脱炭素の動向もあり、変動の周期は短く、大きく変動する傾向にあるようです。

「バルチック海運指数(The Baltic Index)」

シッピングサイクルを読み取る上で、最も参考になる指標の一つが「バルチック海運指数(The Baltic Index)」で、不定期船の市況変動を見る上で最も役立ちます。

1985年1月4日(基準日)を1,000と定め、以来今日まで毎日各船種・船型別に基準値との上下を公表してます。その代表格がBDI(Baltic _Dry Index)で、貨物船(バルカー)の取引

価格指数がドル建てで発表されています。因みにの過去最高は2008年5月20日の11,793、最低は20016年2月8日の293です。現在(2023年3月4日)のBDIは1,603で、瞬間的には落ち込んでいるといえます。

運賃や傭船料をこのBaltic Indexにlinkして決めることも多々あり、金融機関、投資家など広く参考指標と利用されてます。株価とも連動するようです。

が、「上げ潮は全ての船を持ち上げる」という格言があります。果たして海運界に上げ潮はいつくるのでしょうか?