海運のナレッジ

マリタイムバンクSNS『海運ニュース』から読み解く中国の南シナ海問題

マリタイムバンク営業部です。

海運の視点から日々のニュースを追っていると、中国による海洋進出の動きが一際目につきます。

今回は、普段マリタイムバンクのSNSを担当している私が、SNSに掲載した海運ニュース記事を振り返り、なぜ中国がこれほど強引に海洋進出を進めるかについて、南シナ海に焦点を当てて読み解いていきたいと思います。この記事を読見終わった時には、中国とアメリカの海洋覇権争いが身近に感じられると思います。

【2023.3.16 – SNS記事より】

日本とシンガポール、台湾、香港などを結ぶ海底ケーブルプロジェクトが、中国の反対と許認可問題のため計画より1年以上遅れています。海底ケーブルの許可は、海岸線の12海里(約22キロ)からEEZでは通常、許認可は不要ですが、中国が南シナ海で領有権を主張している海域でも許可申請を求め始めています。日本をはじめとするコンソーシアムは、中国が領有権を主張する海域を迂回する新たなルートを開拓しており、建設にあたって時間と費用の増加が懸念されています。

【2023.2.16 – SNS記事より】

フィリピン国防省は、南沙諸島(スプラトリー諸島)にて補給活動を行なっていた船に対して、中国海警局の船が軍事級のレーザー照射で妨害したことを発表しました。このエリアは中国が九段線として知られる広大な海域の領有権を主張し、人工島建設や哨戒活動を通じてその主張を既成事実化しようとしている神経質なエリアです。

【2023.1.16 – SNS記事より】

インドネシアは、南シナ海の南端にある北ナトゥナ海域で活動する中国の沿岸警備船を監視するため軍艦を派遣しました。この海域は、インドネシアのEEZ内で中国が領有権を主張する九段線の水域と一部重なっています。豊富な資源で知られている北ナトゥナ海は最近インドネシア政府がガス田の開発を承認し今後30億ドル相当の投資が見込まれています。

これらは2022年9月~2023年3月のわずか半年の間にSNSで取り上げた記事の抜粋です。いかに中国が南シナ海の周辺国と揉めごとを起こしているかがわかると思います。

そもそも、南シナ海はどこ?

そもそも南シナ海がどこかと言うと、地図を正面見て香港の下、ベトナムの右、フィリピン左にあります。他にもインドネシア、マレーシア、ブルネイに囲まれた海域で、多くの群島が点在しているエリアです。中国は1950年代に台湾の南岸から南シナ海の外縁に沿って「九段線」と名付けた線を引き、この線より内側にある南沙諸島(スプラトリー諸島)、西沙諸島(パラセル諸島)を自国の領土と主張し続けています。

2010年代に入って中国はさらに領有権の主張を活発化させ、2012年にはスカバロー礁をフィリピンから強奪、2013年にはスプラトリー諸島のファイアリー・クロス礁の埋め立て軍事基地を建設、現在では周辺7箇所のサンゴ礁を軍事基地化しミサイルを配備しています。

ファイアリー・クロス礁:左上に滑走路が見える

ハーグ条約による国際裁判の結果は?

困り果てた周辺国は、国際司法裁判所であるオランダのハーグ・仲裁裁判所に領有権に関する訴えを起こし、2016年7月に中国が主権を主張する「九段線」は根拠がないことが国際司法の場で認定されました。しかし、中国にとったら司法判決なんてお構いなしで引き続き周辺国とのイザコザが続いています。

普通は司法判定が出たら中国は領有権を主張できなくなるのでは?と思いますが、実は司法裁判所は、紛争仲裁はできますが罰則や強制する仕組みがありません。中国の立場からすると自国領土に対する内政干渉という主張を繰り返していて、南シナ海の領有権争いは長らく解決の糸口さえ見つからない状況なのです。

なぜ中国は南シナ海の領有権を主張するのか?

ここからが本題です。なぜ中国はこれほどまでに南シナ海の領有権を主張するのでしょうか。

1つ目の理由は、このエリアは重要なシーレーン(海上交通の要所)だからです。例えば日本が中東から石油を運ぶ場合、タンカー船はマラッカ海峡から南シナ海を通り、台湾の南方に位置するバシー海峡を抜けて日本に到着します。もしこのエリアを通行させないと中国が主張すると、石油はもちろん多くの物資供給が制限されてしまうため日本にとってもけして他人事ではないエリアです。

 

2つ目の理由が海洋資源です。南シナ海の未発見の原油量は112億バレルとで日本の年間輸入量の約9倍、天然ガスは190兆m3で日本の輸入量の45年分に相当する量です。南シナ海の領有権を主張することでその裏にある莫大な天然資源を確保することができるのです。

覇権国家として重要なのは深い海

3つ目が、アメリカに対峙するためです。南シナ海の領有権を主張することとアメリカが関係あるの?と思う方がいると思いますが、これは紛れもない事実です。中国の海岸線を見てみてもらえば、中国の海域は領有権を主張する南シナ海と、台湾、沖縄に近い東シナ海が主となっています。しかし、東シナ海の向かいにはアメリカの那覇基地があり、さらには台湾とは揉めていてなかなか軍隊を動かしづらい。一方で、南シナ海は米軍もいないことに加えて、このエリアは深海で潜水艦を隠しやすいという地理的な特性があります。核爆弾は原子力潜水艦で動かしながら隠しているのが定説で、核保有国である中国は深くて自由に航行できる海域を喉から手が出るほど欲しいと言った裏事情があるのです。

当然、中国の動きに対してアメリカが手をこまねいているわけではありません。アメリカの動きについてもマリタイムバンクSNSから抜粋します。

【2023.2.21- SNS記事より】

米海軍の強襲揚陸艦アメリカが大阪港に寄港しています。同艦は物資補給のため数日間滞在した後、離島防衛を想定して日米の合同訓練「アイアンフィスト」に参加する予定です。強襲揚陸艦とは文字通り強襲は「激しく襲う」こと、揚陸艦は「陸に荷物を揚げること」を意味し、アジア太平洋地域の安定を目的として佐世保基地に配備されています。

【2022.11.21 – SNS記事より】

ハリス米副大統領はマニラでフィリピン大統領を訪問しフィリピンの領土防衛に関する米国の関与を再確認する予定です。中国はパラワン沖と南シナ海で自国領土を主張していますが、2016年のハーグ仲裁裁判所において中国の主張は退けられた後も、国境付近でフィリピンへ嫌がらせを続けています。ハリス米副大統領は南シナ海にあるパラワン島訪問を含めた3日間の滞在を予定しています。

物理的に中国と距離のあるアメリカは南シナ海の周辺国、特に同盟国あるフィリピンと関係を強化しています。記事であるようにアメリカハリス副大統領は、2022年11月に中国が威嚇する南シナ海の最前線であるパラワン島の沿岸警備隊の船上で演説し、フィリピンの海上保安機関に対する軍事支援とアジアへの関与を発表するなど、中国を強く牽制しています。また、別の記事にあるとおり強襲揚陸艦を佐世保に配備するのは、中国による台湾侵攻を念頭においた戦隊配備であることは火を見るより明らかです。

最後に

如何でしたでしょうか。マリタイムバンクのSNS記事を通じて、アメリカと中国の覇権争いの一端が垣間見えたかと思います。今回は南シナ海に焦点を当てましたが、世界を見渡すと中国が進める一帯一路戦略に基づいた数々の戦術・戦略を知ることができます。マリタイムバンクSNSをフォローして、続編をお待ち頂けますと幸いです!

執筆者:営業部