地方銀行員、インド・スクラップヤード「Priya Blue」訪問記
船舶投資と出口戦略を現場で学んだ一日
中国銀行 川之江支店 光森亮太朗

こんにちは。岡山県の中国銀行 川之江支店に勤務する銀行員、光森亮太朗です。このたび日本マリタイムバンク様とのご縁をいただき、マリタイム・ライブラリーに初めて寄稿させていただきます。
普段は法人営業として船舶融資にも携わっていますが、常に意識しているのは 「出口戦略」
つまり資産が最終的にどのような価値を生むのかという点です。船舶は不動産と異なり、最期に解体され鉄や機械として再び資金化される特徴があります。この「出口の価値」をどう評価するかは、私にとって大きな関心事でした。
そんな折、インド・グジャラート州アランにあるスクラップヤード「Priya Blue Industries Pvt. Ltd.」を訪問する機会をいただきました。机上で学んでいた出口戦略を、現場で実際に目にするのは初めて。そこには想像を超える持続可能な仕組みが広がっており、資源循環のリアルを肌で感じることができました。
~巨大船が資源へと生まれ変わる現場~

「スクラップヤード」と聞けば、多くの人が「汚い」「危険」「不正労働」といった負のイメージを思い浮かべるのではないでしょうか。私自身もそうでした。ところが、今回訪れたPriya Blueは、その印象を大きく覆すものでした。
アランの海岸には、役目を終えた巨大船が浜に乗り上げ、数百人の作業員が鉄板や機械を手際よく解体していました。作業は、

- 海上で船体を大きなブロックに切断し台船に積む

- クレーンで陸に移し、鉄や樹脂など材質ごとに分別

- 部品をさらに小さく解体し、鉄は鋼材として再流通

- 機械や船具はオークションや露店で販売
という工程で進められます。船の解体を起点に、町全体でリサイクル市場が形成されているかのようで、まさに「資源循環の拠点」と呼ぶにふさわしい光景でした。
働く人々を支える「Priya Blue City」
現場を見て驚いたのは、作業環境だけではありません。Priya Blueには「Priya Blue City」と呼ばれる居住区が整備されていました。
従業員向けに家族部屋や単身部屋が用意され、清潔な食堂や調理場、治療室、レクリエーション室、公園まで完備。まさに“City”と呼ぶにふさわしい環境で、従来の「スクラップヤード=危険」という先入観は完全に覆されました。

むしろ、働く人々の健康や生活を重視した持続可能な仕組みが整っていることに感銘を受けました。
〜国際ルールとNK認証が支える信頼性〜
さらに、Priya Blueが特別な存在である理由のひとつが「シップリサイクル条約(Hong Kong Convention)」に基づく認証を取得していることです。これは国際海事機関(IMO)が採択した国際ルールで、作業員の安全確保・環境負荷の最小化・資源の再利用 を基準として定めています。まだ批准途上ではありますが、今後は世界標準となることが見込まれ、Priya Blueはその先駆けといえる存在です。
この認証を与えているのは、日本に本部を置く世界有数の船級協会「日本海事協会(NK)」です。NKは船舶の設計・建造・運航が国際基準に適合しているかを検査・認証し、世界の商船の約2割がその認証を受けているともいわれます。
いわば「船の監査法人」ともいえる存在であり、そのNKが認めていること自体が、Priya Blueの信頼性を裏付けています。
〜銀行員の目線で考える出口戦略〜
ここまで見学して、改めて考えさせられたのが「船の出口戦略」です。船舶投資は巨額の資金を投じ、傭船料で回収する点では不動産投資に似ていますが、出口の考え方は大きく異なります。

不動産は解体時に費用がかかる一方、船舶は鉄や機械として再び資金化できる可能性があるのです。
さらに近年は新造船価の高騰を背景に、中古船への注目も高まっています。中古船を保有するということは、その最期までを見通す必要があるということ。実際にスクラップヤードを訪問し、船が解体され資源として市場に戻っていく過程を目にしたことで、出口戦略のリアリティを肌で理解することができました。
〜SDGsへの貢献〜
Priya Blueは、NK認証を受けた「グリーンヤード」として、SDGsにも確かな役割を果たしています。

- 鉄や機械を再利用する資源循環(目標12)
- 安全で健全な労働環境の整備(目標8)
- 有害物質を適切に処理する環境保護(目標14)
ここでは収益性と社会性が両立しており、解体ヤードでありながら持続可能なモデルケースだと強く感じました。
〜初訪問で学んだこと〜
地方銀行員として初めてPriya Blueを訪問し、数字や理論だけではつかめない「現場のリアル」を体感できたのは大きな収穫でした。船は単なる資産ではなく、最期まで価値を生み出す資源であり、同時に人や環境に配慮された持続可能な仕組みの中で活かされていることを実感しました。この経験は、投資対象としての船舶を見る視点を根本から変えてくれたように思います。
従来の「スクラップヤード=汚く危険で不正労働の場」というイメージは過去のもの。今では、安全性と持続可能性を兼ね備え、世界標準の認証を受けたPriya Blueのようなグリーンヤードこそが、船舶投資の価値を確かなものにしていると感じました。
〜おわりに〜
今回の見学を企画いただいた皆様、そして長時間案内してくださったPriya Blueの方々に心より感謝申し上げます。
外航船投資は新造船が華やかに映りますが、ファイナンサーとして船の最期まで見届けることも大切です。シップリサイクル条約は日本も主導した国際ルール。適法な解撤が少しでも広まるよう、本稿が普及の一助となれば幸いです。大変ありがとうございました!