不公平なルールを味方につける──抵当権の力

船舶好景気の2004年からこの業界で仕事を始めた私は、当初は仕組みどころか「抵当権」という言葉すら知りませんでした。
当時は、中国という新たな巨大市場がほぼ無から現れ、あらゆるものが高騰していた時代です。マーケットが下落する理由は見当たらず、「失敗しようがない」という空気が市場を支配していました。
しかし、その状況は2008年の「リーマンショック」で一変します。
資金調達は止まり、荷動きは急減、船価も傭船料も暴落。それまで順調に運航していた船会社は一気に苦境に追い込まれました。運賃が支払えない、傭船料が支払えない──やがて船員費が払えない、燃料代が払えないという事態に。そして最後には、融資の返済ができないところまで追い込まれる企業も少なくありませんでした。
抵当権との出会い
当時ブローカーだった私は、傭船料を支払わない船会社の船を差し押さえるため、弁護士に相談に行きました。そのとき言われたのが、「競売にかけても、売却代金は結局、抵当権を持つ銀行が先に持っていくから無駄だ。やめておけ」という一言です。
たとえ他に100社の債権者がいようと、どれだけ大きな債権を持っていようと──抵当権が設定されている船舶を売却して得た代金は、その銀行がまず総取りです。もし残りが出れば、その時点で初めて他の100社が分け合うことができる仕組みです。
この何とも不公平に思えるシステムを、私はそこで初めて知りました。
「実物資産に裏付けされた融資」という強み
最初のブログでも書きましたが、融資が失敗しないよう努力しても、絶対に失敗をゼロにすることはできません。しかし、抵当権を設定している融資(シップファイナンス)では、その失敗を優先して取り返すチャンスがあります。
まさに「実物資産に裏付けされた融資」という表現がしっくりきます。
お金を貸し、その見返りとして決まった利息を受け取り、決まった返済日に元本が返済される。もし返済に問題が起これば、船舶を差し押さえて優先的に回収する。
この仕組みであれば、たとえ船舶投資のリテラシーがない一般の方でも紹介できる──これが、マリタイムバンクの融資型クラウドファンディングの始まりです。
こうして融資型クラウドファンディングの世界に足を踏み入れると、そこでも私の知らない世界が待っていました。
次回は、そのときに感じたことを書いてみようと思います。
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